「働かせて欲しい」と言う権利
昭和の高度成長期、諸外国から「エコノミックアニマル」と評された日本人の労働観ですが、平成後期から令和の現在まで、政府の「働き方改革」の推進もあり、日本人の労働観には変化が生じています。
しかし、一方では、「休日はいらないから働かせてほしい」「残業させてほしい」というような要望をする労働者も存在します。
このような要望に対して会社は、休日に働かせたり、残業をさせたりしなければならない義務、裏を返せば、労働者は会社に対して「働かせてほしい」と言う権利(就労請求権)が存在するのでしょうか。
労働契約と就労請求権
労働契約は、労働者が会社の指揮命令に従って労働を提供する義務を負い、会社がその労働の提供に対する賃金を支払う義務を負うという、双務契約として成立します。
これを反対解釈すれば、労働者は会社に対し、提供した労働に対する賃金の支払を請求する権利(賃金請求権)があり、会社は労働者に対して指揮命令に従った労働を求める権利があるということになります。
つまり、労働契約の本旨に従えば、労働者には会社に対して「労働させてほしい」と言う就労請求権は存在しないことになります。
民法における就労請求権の考え方
労働法上には、労働者の就労請求権に関する規定はありません。民法の契約論では、「債権者に受領義務があるか」という論点になります。民法413条では「債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないときは、その債権者は、履行の提供があったときから遅滞の責任を負う」と規定しています。
この規定の解釈としては、「債権者に受領義務はないが、債務を受領することによって債務の履行に協力するという義務がある」という見解(法定責任説)が学説上の通説になっており、判例もこの立場に立っています。
労働契約においても、同様の解釈ができるでしょうから、会社には労働者からの請求による労働を受領する義務はないと解するべきでしょう。
あくまでも業務命令
これまで見てきたように、労働者には「休日返上で働かせてほしい」「残業させてほしい」と会社に請求する権利はありません。
あくまでも、休日出勤や残業は、会社の命令(業務命令)によって効力を発するということでもあります。
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